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会計監査と税務調査 どう違うの?


会計事務所や税理士事務所、非上場会社で経理経験を積んでくると、次のキャリアステップとして上場会社の経理を目指したい!と思う方もいらっしゃると思います。

上場会社では、「税務調査」はもとより、「会計監査」の対応も必要となりますが、これまでの経験で税務調査や会計監査を経験していないと、これらの違いがイマイチピンとこないかもしれません。



そこで今回は、実際に上場企業の経理部門で管理職をしている私が、「会計監査」と「税務調査」の違いについて書きたいと思います。

これまで経理部門の要員確保として、中途採用面接をこなしてきましたが、上場会社経験がない方の多くは「会計監査」と「税務調査」の違いがよくわかってない方も多くいらっしゃいます。

この記事を読んでいただくと、会計監査や税務調査の違いを理解することで、転職活動や経理としてのキャリアアップにお役立ていただく事ができます。


まずは、用語の定義をしっかりおさえ、実際に転職しあとの仕事内容をイメージできるように、実務における注意点等を見てみることにします。




用語の定義


会計監査とは


会計監査については、日本公認会計士協会のHPで次のように概要が記載されています。

法律で定められている監査のうち、代表的なものとして「金融商品取引法監査」、「会社法監査」、「国等から補助金を受ける学校法人監査」がある。金融商品取引法監査は投資家保護のため、会社法監査は株主や債権者の保護のために「決算書類が会計基準に準拠して適正かどうか」についてチェックし、会計処理の妥当性も同一の基準で判断される。

日本公認会計士協会 - 「法律で定められている監査」より引用


上場会社が作成した決算書は、投資家・株主・債権者保護のため、「金融商品取引法 第193条の2」「会社法 第436条第2項第1号」の定めにより、監査法人の監査を受けなければなりません。


投資家や株主は、上場会社が公表する決算情報等に基づきその会社の株式の購入や売却を決定し、その会社に貸付として資金を供給する金融機関はその会社の財政状態や経営成績等を確認したうえで取引を行います。

もし、上場会社が公表する決算書が数値が誤っていたり、経営が悪化しているにも関わらず虚偽表示により会社を良く見せようとしたりする行為があると、投資家や株主、債権者は適正な取引を行うことができません。



特に、上場会社は発行する株式を証券取引所に上場している以上、世界中の投資家から発行する株式が取引されるため、虚偽表示等が横行すると日本の証券市場に対する信用が失墜してしまいます。

このようなことが起きないよう、金融商品取引法により監査法人の監査証明を受け、公表している決算情報は適正であるというお墨付きを得る必要があるのです。


税務調査とは



税務調査は、上場会社に限らず一般の事業会社でも数年に一度は実施されているため、上場会社以外の経理担当者でも経験があるかもしれませんが、今一度、その定義を確認してみましょう。

税務調査は、国税局や税務署が納税者である法人の申告内容が正しいかどうかを帳簿などで確認し、申告内容に誤りが認められた場合や、申告する義務がありながら申告していなかったことが判明した場合には、是正を求めるものです。

国税庁 - 「税務手続について(近年の国税通則法等の改正も踏まえて)」より抜粋、一部筆者加筆



所得税、法人税、消費税は、申告納税制度が採用されているため、どれだけの税金を納めるのかは、それぞれの会社で計算した金額を納税することになります。

もし、無条件でそれぞれの会社が申告した内容を認めてしまうと、中には意図的に税額を低く申告する納税者が出てきてしまいます。そのため、課税の公平を図るため、定期的に税務調査を実施し、会社が申告した内容が適正なのかを確認する必要がある、ということなのです。

任意調査と強制調査

任意調査


税務調査というと、国税局や税務署の職員がその会社の事務所や事業所等に赴き、帳簿書類の閲覧や各種質問をしていく「任意調査」が一般的です。(根拠条文:国税通則法 第74条の2

「任意調査」の場合、原則として調査日時等の事前通知がありますが(事前予告調査)、現金商売をしている場合など事前通知すると実態把握が難しいと認められる場合は、事前通知がない(無予告調査:現況調査)場合があります。いずれの場合も、税務調査の実施にあたり納税者の同意が必要であるため「任意調査」とされています。


しかし、任意調査といえども国税通則法 第128条に定めるとおり、調査官が必要に応じて行う質問に対して対応しない場合は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金となるため、税務調査を拒否することは実質的にできません。調査を受けること自体は強制される(受忍義務がある)ということです。

第百二十八条 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一 (略)
二 第七十四条の二、第七十四条の三(第二項を除く。)若しくは第七十四条の四から第七十四条の六まで(当該職員の質問検査権)の規定による当該職員の質問に対して答弁せず、若しくは偽りの答弁をし、又はこれらの規定による検査、採取、移動の禁止若しくは封かんの実施を拒み、妨げ、若しくは忌避した者
以下(略)

「 e-gov 法令検索」より条文そのものを引用


強制調査


一方、本当の意味での「強制調査」というのも存在します。

超大口、悪質、犯則嫌疑と犯則行為者の推定がなされる事案に対しては、犯罪捜査として強制調査が実施されます。
いわゆる、マルサと言われるものです。

社長宅、各地の本店・支店、取引先金融機関など、かなり大規模に実施されるもので、ドラマの世界そのものです。
健全な会社であれば、普通は縁がない種類の税務調査となります。

なお、強制調査の根拠条文は、国税通則法 第132条であり、臨検、捜索又は差押え等が規定されています。




経理との関係性


会計監査における監査法人と経理の関係性


会計監査は、会社の決算が公正妥当な会計処理の基準に基づき適正に実施されているのか?という視点でチェックされていきます。

監査法人は、会社の言っていることを鵜呑みにすることなく、資産計上しているものの実在性(実際に存在するのか)、資産性(資産に計上すべき要件を満たしているのか)、収益や費用は適正に計上されており期間帰属も適正に処理されているか、各種引当金や税効果会計など見積が必要なものは合理的な見積もりに基づいているか、計算過程に誤りがないかなどをチェックしていくことになります。


経理の立場としては、決算を正しく処理していることを、各種証憑や計算資料等をもとに説明していくことになります。
なお、減損損失など有価証券や固定資産の評価について懸念される事項があれば、実際に決算作業をする前に監査法人とも協議しておき、決算時は適正に処理できる状態としておくと、決算対応時の監査において非常にスムーズに対応してもらうことができます。


監査法人は会社の決算が適正に処理されているかチェックする立場ではありますが、会社と敵対するというものではなく、会社とともに会社の決算が適正なものであるという表明をする立場でもあるのです。


税務調査における調査官と経理の関係性


税務調査は、会社が提出した法人税や消費税の申告書について、課税の公平性の観点から適性に申告されているかどうかを確認するため、調査官が調査対象となる会社に赴き、会社の帳簿関係を確認したり必要に応じて会社の役員や従業員に質問等をしていきます。

そして、会社の申告内容に誤りが認められ、本来納税するべき税額よりも低く申告していた場合は、会社は修正申告をして正しい税額を納めなければなりません。より多くの申告誤りを指摘し、多くの税金を追徴できれば、それだけ調査官の成績となるわけです。


調査官はより多くの誤りを見つけたい、一方、会社経理としては、誤りを見つけられると追加納税が発生するため、会社の申告は正しいと主張しなければならない。立場がまるで逆、ということです。


臨場調査(調査官が事業所に赴き実地で調査すること)期間中、調査官と何気ない会話がされることもありますが、経理の立場として油断は禁物です。調査官はこちらの発言や行動をしっかりと観察し、後の調査過程における状況証拠との不一致があれば容赦なく突いてこられます。

税務調査においては受忍義務があるため、調査官の質問検査権に対しては真摯に対応する必要がありますが、質問を受けていないことまでベラベラと話すのはNGです。ベテランの経理マンになると、そのあたりは阿吽で理解できるレベルになっているはずです。


まとめ:会計監査のノリで税務調査に臨まないこと


会計監査と税務調査の違いについて、理解していただけたかと思います。

会計監査は新人も積極的に関与する機会がありますが、税務調査は経験豊富なベテランが対応することが多いと思います。会社の財産を守る(=税務調査における追徴を受けない)ためには、臨場調査において一切の隙を見せることができないからです。


経理に配属され中堅になってくると、税務調査の対応を任される場面も出てくるかと思います。
その時に注意しないといけないのが、調査官に対し説明しすぎない、ということです。


以前、私の部下で中堅クラスのメンバーに経験を積んでほしくて税務調査の立会に一部参加してもらったことがあります。

その時、資料の説明にあたり、聞かれてもないことを流暢に説明しはじめ、決算手続きの流れを事細かに説明してしまったことがありました。当然、その後の調査手続きにおいて、ある処理は決算に間に合うように処理をし、別の処理は決算に組み込まずに翌期の処理としていたものがあり、説明に大変苦慮したことがあります。


中堅になると、知識も増えてきて仕事もより一層楽しくなるかと思いますが、会計監査で監査法人に説明するのと、税務調査で調査官に説明するのでは、全く次元が異なる対応となるため、ごっちゃにならないよう注意する必要があります。



また、資料を提出するにしても、会計監査であればわかりにくい資料であっても説明すれば会計士は理解してくれようとしてくれます。一方、調査官にそういう資料を提出すると、質問がどんどん波及していき、その他の事案にも影響してしまいかねない状況となります。

会計監査も真摯に対応する必要がありますが、税務調査になると、ボロを出せば即追徴課税につながり、大切な会社のキャッシュを流出される事態となるため、調査官の質問の意図は何か、税務上の論点は何でどのような指摘に波及しそうなのかを常にシミュレーションしながら対応していく必要があるのです。

各種法令等の情報へのリンク


経理に携わる以上、会計監査や税務調査に対応するにあたり、関係法令をしっかり把握しておくことが非常に重要です。

同じ経理部員でも、ある人は根拠法令をしっかり理解し報告してくるのに対し、ある人は「以前もこのように処理していたから」とか「○○さんがそう言っているから」と報告してくる人がいます。

あなたが上司の立場だとすると、どちらの人を採用したいですか?もちろん、前者ですよね。


採用面接においても、税法や会計基準の条文を知らない方が多いです。

もし、これまで条文など気にしたことがなかったという方も、今からでも遅くないです。経理のプロになりたいのであれば、一次情報である根拠条文は必ず確認する習慣を身につけましょう。それだけでライバルと大きな差をつけることができます。


法人税法や消費税法などの税法、財務諸表規則等の会計関連法規


デジタル庁が整備、運営するWebサイト「e-gov」で確認することができます。

e-gov法令検索(デジタル庁)へのリンク


会計基準、適用指針、実務対応報告などの企業会計基準


財務会計基準機構のwebサイトで確認することができます。

財務会計基準機構へのリンク

企業会計基準
企業会計基準適用指針
実務対応報告

日本公認会計士協会が公表する実務指針等


日本公認会計士協会が公表する各種情報は、以下webサイトで確認できます。

日本公認会計士協会-実務指針等公表物一覧





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